2025年 2月


路面電車のハレノワへの単線環状化について、市議会での答弁で、9億円が27億円と試算されたと山陽新聞に載った。資材高騰や人手不足などが原因とは書いてあるが、少し詳しく解説を書いておこう。
RACDAは30年前に、路面電車環状化を実現させるために発足した。当時岡山商工会議所副会頭のベネッセの福武氏が、「公費投入の路面電車建設には、市民運動の力が必要」と我々に働きかけてきて結成した。岡山都心1kmスクエア構想は、今では国のコンパクトシティの根幹となる、公共交通による都市再生の最先進事例となるもの。
結果的には富山や札幌、宇都宮のLRTの先鞭をつける計画だったが、岡山では現市長になるまで前に進まなかった。しかしともかく、こうした構想があるので、地元財界の都心投資は進み、これがイオン都心進出の引き金にもなり、岡山市は固定資産税を大幅に増やす(501億円から575億円)事が出来、市の財政は潤っている。
さて今回の路面電車単線に拠る環状化の例は、2009年に開業した富山都心環状線だ。既存路線に940mの延伸で環状化し、3編成の新車両を導入した。工事費は22.3億円。この金額は工事費の完了時点のものだから、総事業費を勘案するために参考になる。2010年にRACDAでは、大雲寺町からハレノワ前を通り、西大寺町までの600mを約15億円と推計し、「クリーンモバイル3」で発表した。この時点では、岡山駅前乗入れもデッキ案などで確定していなかったが、当然ながら駅前乗り入れと環状化はセットで実現しなければ、岡山都心の活性化には不十分であった。市議会ではそのあたりも議論されている。
さて昨今の工事費の高騰は、アリーナや路面電車駅前乗り入れのような新規事業では問題とされるが、全国各地の道路建設やあらゆる工事でも顕在化している現象で、道路新規建設より以上に渋滞対策効果のある道路事業の一環としての路面電車延伸だけを、取り立てて問題にするのはフェアーでは無い。
なお建設工事現場での人件費高騰は、単に労働力不足だけでなく、全国的公共事業投資の半減で、建設管理技術者の絶対量も不足し、技術の継承が出来ていないことも大問題である。特に路面電車軌道の敷設などの経験者は極端に少ないはずだ。(因みに欧米や中国では、ドンドン路面電車が建設差されていて、日本のみが取り残されている)
当初岡山市が9億円と試算したのは、おそらく直接の軌道敷設とそれに関係する工事費だけであろう。しかし既存の道路には下水管や水道管、ガス管など多くの埋設物があり、その調査から始める。既存の道路交通への影響を最小限にしようとすると、工事は少しずつやらざるを得ず、工期が伸び、交通整理費、警備費も膨らむ。けれどもこれらは詳細設計の段階でしか、積算は出来ないものである。
岡山駅前乗り入れの工事も、当初の軌道敷設費10億円ほどが、駅前広場全体の総工事費122億円と膨らんだ。軌道敷設そのものよりも、地下街の強度補強、地下街の消防法対応、工期が伸びることでの地下街商店の損失補償等の方が大きく、さらにタクシー乗場と送迎スペースの入れ替え、後楽園をイメージしたバースターミナル改修、全体の修景にプラスして、工事費高騰、人手不足が重なったものである。岡山市も当局ももう少し膨らんだ理由を説明するべきだが、たとえばデッキ案であっても、もっと膨らんだ可能性もあるわけで、単純な比較はできない。
その上で、路面電車軌道のレールが特殊で、輸入品なので、円安で膨らんだとあるが、従来のレールのアスファルトの下は、普通の砂利を撒いた軌道になっており、電車だけでなく自動車が通るたびに軌道は沈む。この軌道をインファンドというコンクリートにゴムを介してとめる施工を施せば、保守費用は格段に減らせる。道路でも鉄道でも、保守しやすい設計は必須だ。いまの下水道問題にも通じる問題だ。日本ではこうした技術も遅れている。
また、単線環状部分は、歩道寄りに敷設するが、ここに安全上フェンスを敷設する費用も増加したとある。実は25年程前、この歩道寄り敷設を岡山商工会議所が提案したとき、岡山県警からは歓迎するメッセージを頂いている。私も国交省道路局国道課とやりとりしたが、歩道寄りだと、国道への駐車違反を減らせるという。沿線の商店への荷物搬入などは、別に駐車スペースを設けることになる。ただ今回フェンスを要求したのは県警だろう。けれども欧米では、歩行者優先を徹底して、下手にフェンスを設けない例も多い。主に景観上の問題だ。旧2号線fは通行量も多く、フェンスを設けるという判断になったのだろう。
なお大雲寺町からハレノワまでは、歩道よりに敷設することで、旧2号線を横断せずにすみ、道路渋滞への影響は最小限に抑えられる。既に東大吉村研究室とRACDAの共同研究を岡山市も採用して、シミュレーションされているし、その前に25年前の国交省道路局の交渉過程があり、今回の旧2号線の軌道敷設部分は、既に自動車走行車線とせず、広い歩道や自転車道として配分されている。
以上の様に、技術的な側面も含めて、あるいは道路交通への影響も含めて、詳細に検討した結果で膨らんでいるのである。私の感覚では、15億円が27億円となったにしても、富山環状線の22.3億円と比較しても、より大きな効果が得られると思う。表町南部へのアクセスが飛躍的に向上し、文化拠点として威力を発揮するだろう。昨今の都心不動産価格の上昇を見れば、この位の金額は、おそらく固定資産税の増加2年分位なのではないか。ただし、マンション林立ではなく、文化的コンテンツづくりをもっともっとやらないと、若者が移住定住するだけの魅力を作ることが出来ない。アリーナは表町南部でもよかったかもしれない。

山陽新聞記事2025-0222
岡山・ハレノワ周辺ルート
コスト3倍 路面電車の延伸・環状化の優先整備を目指すハレノワ周辺ルート。概算事業費が従来想定の3倍に膨らむ見通しになった
 岡山市は21日、路面電車の延伸・環状化事業で優先整備を目指す岡山芸術創造劇場ハレノヮ(同市北区表町)周辺ルートについて、物価高騰や安全対策の追加で概算事業費が、従来想定の3倍の約27億円に膨らむ見通しを明らかにした。事業化に向けた調査を踏まえて再算定した。
 延伸・環状化は、清輝橋線大雲寺前(同所)と東山線西大寺町(同京橋町)の両電停間600mを結ぶ計画。市が2019年度に示した事業費は9億円だった。
 市交通政策課によると、調査は昨年5月から進めており、需要推計なども含めて検証。事業費はレールなどの輸入部材が物価高騰や円安で値上がりし、人手不足で人件費も高騰。安全対策として歩道と軌道の間の柵設置も加わり、コストが上がったという。
 市は、国と岡山電気軌道(岡山市)を合めた3者が均等に事業費を負担することを想定し、同社は全額公費負担を求めている。
 事業費拡大の見通しは2月定例市議会代表質問で、大森雅夫市長が答弁。今秋に市中心部で計画する路線バスの運賃引き上げに合わせて路面電車も運賃改定を予定していることを踏まえ「どれほど路面電車の収支が改善するか試算した上で、事業者と費用負担を協議していきたい」と述べた。(久岡広和)



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