岡山市パブコメへのコメント | NPO法人 公共の交通ラクダ(RACDA)

岡山市パブコメへのコメント

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岡山市公共交通網形成計画パブリックコメントに提出 令和2年5月11日  新着 5/24

特定非営利活動法人 公共の交通ラクダ 会長  岡將男

■コロナ禍で地域の電車バスを運行する事業者はすべて、外出自粛による売り上げ激減に苦しんでいるが、一方で医療関係者など社会基盤労働者(エッセンシャルワーカー)に最低限の通勤手段を確保するための運行維持を要請されており、何の補償もなく運行を継続している状況だ。交通の現場は、感染リスクを抱えながら必死の運行をしているが、春の新学期等の定期券販売をはじめ、観光客・買い物客の現金収入を失っており、5月25日の給料支払いなどで各社は資金詰まりを起こし、各地で運行が困難になる可能性がある。また今後コロナ禍が収束したとしても、影響が長引くだけでなく、既に被った打撃を吸収することは不可能であり、公共交通は道路と同じく「公共財」であるとの認識をさらに強化し、この交通網形成計画の実現のスピードを劇的に早め、公的関与を急ぐべきだ。資金供給については、一時的にバス路線の公有化なども視野に入れ、国・県と協調して路線の維持を図るべきだ。そのため市は事業者に半月ごとの前年対比運賃収入の提出を求め、市議会とも協議して、至急に対策を講じるべきだ。

 

■重複するバスルートの無駄を省くという方向性は大事だが、、コスト削減の度合いの計算は、営業所単位で多数の路線を運行する場合、それほど大きなコスト削減には繋がらない。固定費が低く人件費度合いの高いバス路線でも、コスト計算はもっと事業者の懐に入って、運行事情や付帯事業との関係、内部補助の実態に切り込まないと、事業者の積極的同意に至らない。そのためにはまず毎週でも関係各社の実務関係者を集め、今ならZoom会議などで情報交換をする必要がある。各社ともコロナ禍で疲弊しているさなかだけに、却って一致点が見いだせるのではないか。

コロナ禍で注目されたのは、特に固定費の高い鉄道部門では、朝晩の満員電車を基本として収益計画が作られており、少しでも利用率が落ちればたちまち存続の危機に陥ることである。これは大手のJRでも顕在化することだ。今後は数年にわたり満員電車を避ける必要があり、岡山地区のJR路線の維持についても、岡山市が費用負担していくことが求められる。ただこれは全国一律の事態なので、国県とも協調して網計画全体の見直しと絡めて進めていく必要がある。

 

■めぐりんには環状ルートの運行を提案

めぐりん参入の背景には、岡山市の場合すべての電車バスが岡山駅方向への放射状の路線しかなく、環状の網の目になるルートを要望する潜在需要があった。ところが市民の要求と違い、都心環状ルートも猫の目のように変わり、日赤線、西大寺線など既存路線参入と迷走し、過度な競争は他社の体力を奪うだけになっている。

そこで独禁法運用の変更などで可能になる、岡山市の調整権限拡大をさらに一歩踏み出して、市民が求める「交通網」の構築の胆である、環状方向への路線を岡山市が主体となって計画し、めぐりんにはそちらに重点を置いて貰う誘導策が現実的である。

2002年のバス部門での規制緩以後、路線バスへの新規参入は、京都、岡山、長崎など極々限られる。調整した例としては、京都では商工会議所が仲介して、MKタクシーの新規参入を京都市交通局の一部路線を譲って阻止した例がある。バス部門での規制緩和は失敗と言え、岡山の大混乱が象徴的だ。これを調整できるのは岡山市しかない。

 

■JR駅等をつなぐ環状バスルートの創設

岡山市の交通網はJRの8方面への路線を中心に展開しているが、電車とバスの協調が岡山駅以外では行われて居らず、都市交通としては連携があまりに不足している。この3月のダイヤ改正でJRは瀬戸大橋線の増便に踏み切り、吉備線LRT化でも運行頻度増加と駅の増設を目指していることは、都市交通全体にとって素晴らしい政策転換だ。そこで市内の交通空白地域をカバーする環状バスルートを創設するべきだ。具体時には

吉備線一宮駅⇔山陽線北長瀬駅⇔瀬戸大橋線西市駅

瀬戸大橋線西市駅⇔日赤病院⇔南ふれあいセンター(岡山市計画の南区役所に繋ぐ)

山陽線東岡山駅⇔赤穂線大多羅駅⇔バス西大寺線益野団地

赤穂線西大寺駅⇔宇野バス平島交差点⇔山陽線瀬戸駅

これらのルートは30分に1本程度の運行が望ましい。福岡市の場合は西鉄バスがJR線・西鉄線の駅を環状にうまく繋いでいるのが参考になる。特に西大寺線での2社の過度な競争などは、その両社の資源を環状に誘導するべきだ。

ただこうした環状路線は採算性は厳しく、また開設して2年程度は通勤通学需要が発生しないので、岡山市が政策的に決断し、リスクを負担しないと成功しない。網形成計画の根幹というべきルートなので、公設民営に近い費用負担が求められる。各社の路線の調整をして余力を生むという今回の路線網再編計画の発想は正しいが、更にJRの路線を繋ぐという発想を加え、最適バスルートの全面計画まで見通して欲しい。

 

■全国共通ICカードの全路線導入

岡山市内の路線バスでは、ようやくJR西日本のICOCAなど全国共通10カードを使えるようになったが、宇野バス・中鉄バス・めぐりんでは利用で出来ない。運転手不足の中で、運転手が料金収受に費やす労力を極力減らし、足腰の弱いお年寄りの料金支払い軽減のためにも、また料金収受による遅れ解消のためにも、全社でICOCAの導入を岡山市が先導して1年以内に行うべきだ。

この場合、今までは初期投資をする場合のみ1回キリで補助があったが、バス台数50台以下の会社の場合、コスト的には合わないので導入が進まない。一方早くからあるハレカはもうシステムが古く更新時期を迎えている。

そこで単独で導入できないバス会社には80%程度の初期投資を負担してやり、ICOCAへの片乗入れカードを導入して貰うべきだ。これを堺市のように高齢者補助を導入する際に同時に行うのが望ましい。さらに各バス会社が今まで10カードの導入が遅れたのは、ランニングコストが150台位バスを所有するバス会社でも過大になるためで、今後は導入済みの会社を含めて、ランニングコスト分は岡山市を中心とした交通連合的な部分で負担する仕組みが必要だ。これを実現するためには、岡山市レベルで年間数億円の負担が必要であるが、結果的に各バス会社にとっては大きな負担軽減になり、歓迎されるだろう。

 

■高齢者割引と高校生割引

高齢者割引の制度が政令市でないのは、わずかに数都市だが、他都市の事例を見れば、利用者に半額を負担していただくという方向性は妥当だ。横浜市や名古屋市など紙ベースで事実上上限の無いスタイルは無理がある。堺市の導入している「高齢者ICOCA」が一つのモデルになる。適用年齢については、65歳、70歳と2例がほとんどである。熊本市交通局路面電車の8割引はやり過ぎだ。

しかし高齢者割引だけでは、公共交通の未来はない。少子高齢化の方向を改めるには、高校になって初めて学区外に出る高校生に定期割引を半分程度補助してやるのが、今後のトレンドになる。岡山市は土地が平坦なので、バス定期が金銭的に負担となるため、自転車にシフトしている傾向がある。そこで高校生の時からバスを使う方向付けをしてやれば、大学卒業後に地元岡山に帰ってくる確率が高まるはずだ。本来学割をバス会社が負担するというのはおかしく、もしバスが無ければ行政がスクールバスなどの手配を税金でするわけだから、高校生以下をタダにして、その部分をバス会社に支払う方式でもよい。いずれにしても高校生バス無料政策の検討を提案する。

 

■乗り継ぎ100円割り引きとゾーン運賃制

全社ICカード化、高齢者ICOCAの導入時にあわせて行いたいのが、乗り継ぎ割引初乗り100円引きだ。ICカードで60分以内に乗り継ぐ場合とするのが妥当だ。140円区間を乗り継いで280円が180円になればかなりのお得感があり、バスに誘導できる。ICカードを使えばこのほか様々な割引サービスがタイムリーに打つことが出来る。利用者が増えてバス会社が増収になれば、またその部分は共同して再投資に使えばいい。

しかし一方で都心部の100円運賃は、最低限の運航コストさえまかなうことができない。全国的に政令市をみると、初乗り運賃は180円以下は少なく、岡山は全バス会社の体力を消耗している。そこで数年内には都心の100円運賃を解消し、160円程度に最低運賃を値上げするべきだ。これは岡山市が主導して実施し、一部はプールできるように、制度も変えていく必要がある。こうした取り組みについては、広島市の例がある。今後バス5社の共同経営をめざす熊本市とも共同で制度設計に取り組むべきだ。これらも岡山市が提案した独禁法の運用変更が、広島・熊本に反映されているのだから、一緒に出来るはずだ。

 

■オープンデータとビッグデータ

岡山市はバス会社の調整では日本一大変な町だが、一方でバス情報のオープンデータ化については日本最先端であることは今なお変わらない。具体的には、バス会社がGTFSという世界標準のデータ形式でバスダイヤを編成して公開すれば、世界の誰でも岡山のバス運行データ、リアルにいま何処をバスが走っているか、何分遅れているかまで、googleマップ上で、スマホを使って知ることが出来る。

こうした中で、佐賀県、沖縄県、群馬県などが県単位で取り組みを始め、岡山県も今年度市町村コミバスのオープンデータ化支援に取り組む予定だ。コミバスのオープンデータ化は、その地域の小さな交通需要を観光資源化していく可能性を拡大する。またICカード化の徹底で観光客の検索需要と料金収受抵抗の両方に貢献する。

しかしここでもバス会社の疲弊による、オープンデータ担当者不足という問題に突き当たる。少なくとも各社に最低2名は、バスダイヤ作成をオープンデータとして制作する者を作ってやる必要がある。こうした成果は、観光や地域イメージ、移住定住など幅広い遡及力を持つのであるから、その費用は岡山市などの周辺市町村を含めた広域連携で取り組む必要がある。

調べてみると、岡山市周辺の赤磐市、瀬戸内市、和気町、備前市などでは公営でコミバスをやっているものの、オープンデータまで手が回らない状況で、スマホ検索が出来ないが、岡山県の強力で実現すれば、自動車に頼らなくてもたとえば西大寺から和気の鵜飼谷温泉に電車バス乗り継ぎで行けたりする。新規の需要を作ることが出来、結果として都市圏全体の自動車分担率を下げることが出来、高齢者のお出かけ需要を喚起できる。これらも岡山市がイニシアティブを取る必要がある。

さらにICカードを使い、オープンデータを整備して得られるビックデータ、さらにはリアルタイムGTFSを使って得られるデータを使えば、交通管制なども可能で、来たるべき将来、県警のリアルな道路渋滞情報と交通シミュレータを連動させれば、雨の日の渋滞区間のバス料金を半額にするなどのタイムリー交通管制が可能になり、いま日本で一番MaaSの可能性が高いのが岡山であるとの意識で、岡山市がイニシアティブを取って欲しい。

 

■中鉄バスとめぐりんの連携の可能性

めぐりんの国立病院戦への参入が取りざたされているが、これは岡電と中鉄の共同運行区間への参入となり。運転手不足で休止区間のある中鉄にとってはさらなるダメージとなり、再編どころではなくなる。そこでこの参入については、岡山市はなんだかの介入をしなければならない。さらに吉備線LRT化を視野に入れる中で、その沿線のバスルートの崩壊は食い止める必要がある。

そこでここでも吉備線LRT化を待つので無く、岡山市が主体となって、吉備線の駅からの巡回バスなどを企画し、調整する必要がある。たとえば朝晩の芳賀佐山団地からの中鉄バスは一宮駅へのフィーダー輸送に徹し、めぐりんはそれを補完するルートへの参入、あるいは中鉄との共同運行なども検討するべきである。単に今あるルートへの参入を認めるのでは、もはや運輸行政の監督官庁が無いのに等しい。運輸部門の規制緩和は失敗なのである。国土交通省もめぐりん参入当初から、その事業採算性など全く監督できていないのではないか。岡山市としても、法的に出来るかどうかだけでは無く、バスを崩壊させて地域を崩壊させないためにも、きちんと対応するべきである。


岡山駅バス時刻表